イオンシネマWebスクリーン powered by U-NEXT 取り組みのご紹介
2017/12/01
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イオンシネマWebスクリーン powered by U-NEXT 取り組みのご紹介

U-NEXTの柿元と申します。

株式会社U-NEXTが手がけるインターネットを通じた動画配信サービス「U-NEXT」(以下、U-NEXT)は2007年のサービス開始から本稿執筆時点で10年を迎え、日本の動画配信市場が文字通りゼロの状態から共にあり続けてきました。

幸いなことに近年は市場に対する注目も高まり、事業運営に関する問い合わせをいただく機会も増えています。

12月1日付けでコーポレートサイトをリニューアルしたことを契機に、特によく質問される内容にお答えする形で、私たちの取り組みをご紹介したいと思います。

最初は、イオンエンターテイメント株式会社と2013年より共同で提供している「イオンシネマWEBスクリーン powered by U-NEXT」(以下、イオンシネマWEBスクリーン)についてご紹介いたします。

イオンシネマWebスクリーン

イオンシネマWEBスクリーンは、シネコンと連動した国内初のビデオ・オンデマンド・サービスとして誕生しました。配信している作品種から、最新作などの視聴に利用できるポイント、デバイスなど、すべてU-NEXTと同一のものを提供しています。

一方で、イオンシネマは、イオンエンターテイメント株式会社が運営している国内最多のスクリーン数を誇るシネコンです。そんな映画興行事業主が、劇場へお越しいただいたお客様に動画配信サービスを案内しているという点、しかも動画配信事業者であるU-NEXTと共同して提供している点が世界でもまれにみるユニークさがあるとして、海外の調査会社やコンサルティングファームから質問を受ける機会が多い案件です。

なぜユニークと評されるのでしょうか。

映画興行事業者と動画配信事業者の関係性

ご存じの方もいらっしゃるように、映画興行事業者とその他の映画流通事業者(二次利用メディア流通事業者)間には、作品の取り扱い時期・期間をめぐってある種の緊張関係が生じやすい関係にあります。

理由は単純ですが、少し前提知識が必要です。

映画を製作するには資金が必要です。そして投じられたお金が回収できなければ、次の映画が生まれません。そのため、収益の安定化を目指して映画の一次利用・二次利用という概念が生まれました。映画館で見ることを一次利用、映画館以外での視聴機会を二次利用と定義付け、合算した全体で収益を最大化するという発想です。

二次利用のメディアはテレビ放送、衛星放送、VHS、DVD、Blu-ray、そして動画配信サービスへと時代を経るに従い多様化してきました。世の中は常に変化しています。ひとつのメディアに過度に収益を依存することなく、かつより多くのお客様が作品に触れる機会を持てるよう、コンテンツを各メディアに一定の順序で流通させる戦略(ウインドウ方式)が広く取られるようになりました。例えば、劇場公開→6カ月=DVD&Blu-rayレンタル、配信セル&レンタル→6カ月〜12カ月=有料放送(BS・CS)→12カ月〜18カ月=無料放送(地上波)・見放題配信、といった具合です。

ヒトは新しい情報を評価する性質を持っていますから、同じ映画を見るならなるべく早く見たいと考えるものです。

結果、すべてのメディアは他メディアに先駆けて映画作品を取り扱えるよう競争するようになりました。あるいは、作品公開の起点となるべく自らが主体となって映像作品を製作し、ウインドウの先頭に立つ試みも生まれるようになりました。競争関係は映画興行事業者と動画配信サービス事業者も例外でなく、例えば、配信サービス主体で製作された映像作品を映画賞においてどのように取り扱うべきか、論争が起こるまでに至っています。

参考: SVOD時代のウィンドウ戦略とは? FOX、バンダイらが紹介 - AV Watch

参考: 新たなウィンドウ戦略と劇場公開戦略 - GEM Standard

映画興行事業者と動画配信事業者の協業

このような環境の前提がありながら、幸いにもイオンシネマWebスクリーンはサービス開始から4年以上継続することができています。

なぜ一見交わりそうにない両者が手を組み、協力関係が続いているのか。さまざまな要因はあるでしょうが、少なくとも「映画館で映画を見る営みに関わるすべての関係者が経済合理的なメリットを得られる」ように考慮して事業が建てつけられています。

広義でみると映画製作者や映画配給者など利害関係者は多岐にわたってしまいますが、今回の取り組みでは

イオンシネマ × 劇場利用者 × U-NEXT

の三者に集約することができます。順番に見ていきます。

イオンシネマのメリット = 従来型収益と性質の異なる新たな収益源の獲得(ただし経済的な懸念を抑える)

映画館の主な収入はチケット収入に劇場内で販売される飲食、グッズ販売収入を加えたものです。

参考: 映画館の空席を解消するサブスクリプション・ビジネスモデル -JNEWS-

これらの収入は、4DXやドルビーアトモスといった技術革新の取り込み、独自の割引制度の採用による稼働率の向上、取り扱い飲食品・グッズの魅力向上などにより最大化を見込めますが、劇場に収容できる観客数に上限がある以上、右肩上がりで収益を積み上げることは困難とされています。

しかし、劇場に来られるお客様に追加で動画配信サービスを提供する場合、収容人数の制約を超えて収入を確保することが可能になります。お客様が来場されなくても、映画を楽しむ対価としてお金を使ってくださるのですから。

良い所ずくめのようですが、もちろん懸念点はありました。カニバリゼーションと開発コストです。

動画配信サービスは、当たり前ですが、自宅や移動中に映画を楽しむことができます。映画館に行かなくても映画を楽しめるという言い方もできます。動画配信サービスがあれば映画館に行く必要はない、という暴論が成立する余地があります。

イオンシネマWebスクリーンではこの懸念を「実行しない理由」にするのではなく、実際に悪影響がでるのか検証するという見地に立って、サービスを開始しました。結果はどうだったかというと、サービスが継続している事実から推し量ることができるでしょう。

映画館には、間違いなく特別な価値があります。視界を埋める巨大なスクリーンに投影される映像美と、緻密に設計された音響設備が奏でる大迫力のサウンドがあり、気の合う知人と一緒に、あるいはひとりで集中して映画世界に没入できる体験は、少なくともまだ動画配信サービスでは得ることがむずかしいのです。

もう一方の懸念も、新サービスを立ち上げるには常に付きまといます。動画配信サービスも例外でなく、新規に立ち上げるには通常かなりの費用負担が必要です。詳細を語ると長くなるので反響があれば別の機会に執筆することにして、この場では割愛します。

U-NEXTがシステム開発会社であれば、相応な桁数の見積書を提示することになったでしょう。しかし私たちは、すでに実績のある配信サービスを運営しています。イオンシネマ向けに一定のカスタマイズをする工数と費用は必要ですが、すべてをゼロから作り上げることに比べると圧倒的に少なく済みます。「カニバリゼーションの懸念が現実か検証する」という手法をとることができたのも、開始にあたり、経済的なリスクを負う必要がなかったという側面がありました。付け加えるなら、同様の理由によってサービス開始までに必要な期間も短く済みました。

劇場利用者のメリット = 関心に沿った、すぐに役立つ魅力的なオファー

関心のない出来事に注意を払うのは、誰しも望まないことです。しかし映画を見に来ている人は、ほぼ確実に映画に興味を持っていると言えるでしょう。

イオンシネマWebスクリーンは、無料トライアル登録をすると映画チケット購入に使える1,800円分のポイント(仮想通貨)を、もれなくすぐに受け取ることができます。

映画チケットは1,800円で買えますから、これから映画を見ようと思っている人がその場でポイントを引き当てることも可能です。劇場内でご案内していても不利益はないですよね。

U-NEXTは上映中作品の関連作品も揃っていますから、家に帰ってから同一シリーズ、監督の過去作、気になった俳優の出演作、など芋づる式に見ていくこともできるでしょう。

劇場利用者にとって良いこと、を提案できていると思います。

U-NEXTのメリット = 映画が好きで資金と労力を投じる、極めて優良な潜在顧客接点の獲得

日本で動画配信サービスは苦労します。統計データからも市場調査からも、個人レベルの体感からも明らかです。テレビさえあれば無料で面白いテレビ番組(映画含む)を見られるのですから、わざわざお金を支払うという習慣が強くありません。

<b>ちなみに、視点を世界に移すと状況は全く異なります。意外と知られていない事実ですが、面白い番組がテレビで無料放送されている先進国は、日本以外にほとんど存在しないのです。</b>

この事実は、U-NEXTに魅力を見出し、お金を支払ってサービスを利用するお客様と出会うために必要な、PR・マーケティングコストがかさむことを意味します。

確かにスマホの普及に伴いオンライン広告市場が開かれ、以前に比べれば特定の興味を持つユーザーにつながることは容易になりました。それでも、実際に映画館に足を運ぶお客様に対面できる機会は貴重です。

実際、イオンシネマWebサービスを接点として、日々多くの映画ファンの方々に動画配信サービスを知っていただけております。ありがたい限りです。

今後の展望

映画興行事業者と動画配信サービスは、どうしても対立構造として捉えられやすい(そのような見方をしたほうが耳目を集められる)という特徴がありますが、少なくとも私たちは共存共栄の道を歩みたいと考えています。もともと、映画作品の二次利用メディアとしての立ち位置が動画配信サービスの本分ですし、映画コンテンツあっての動画配信プラットフォームです。

インターネットにつながったスマートデバイスを1人1台以上持つのが当たり前になった現代において、可処分時間をめぐる競争は激しさを増すばかりです。

素晴らしい映画作品を見るという体験は何事にも代えがたい喜びを私たちに与えてくれますが、同じ時間を使ってSNSで友人とつながったり、ゲームを楽しんだり、本を読むこともまたできるのです。

U-NEXTは、動画配信サービスを主軸とした事業を営んでいる事業者として、これからも映画産業と手を携えていきたいと願っています。

注釈

  • 当記事は2017年12月01日に公開されました。すべての表記内容は公開時点の情報に基づきます。