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ヒットの影には女性あり?『娼年』が年間ランキング1位に輝いた理由とは

「U-NEXT年間ランキング2018」において、9月14日に配信開始されたばかりの『娼年』が年間1位に輝きました。劇場公開時のヒットも記憶に新しいですが、並み居る大作のなかで、なぜ『娼年』が1位になったのでしょうか。その理由を、本作のプロデューサーのひとりであり、二次利用に“強い”作品を多く手がけてきた株式会社ハピネット ピクチャーズユニット 映画制作部・永田芳弘氏に聞きました。


−『娼年』が、興行収入10億円以上の作品を押しのけて、U-NEXTの年間ランキング1位に輝きました。まずはその感想をお聞かせください。

SNSで話題になり劇場でもヒットした作品なので、配信へのプレッシャーも感じていましたが、想像以上の結果でした。なかでもU-NEXTさんは頭ひとつ抜けていて、現在に至るまで全体に占めるシェアを維持しています。

−弊社では、配信開始から1週間の販売実績において、歴代の実写邦画の記録を更新しました。

もちろん他のサービスでもランキング1位になっていましたが、U-NEXTさんの実績には正直驚きました。会員様向け、サービス内でのプロモーションはもちろん、外向けにもプロモーションをしてくださったことが非常に大きかったのだと思います。実際、映画がまだ公開中かと思うくらいの多くの告知・バナーを目にしましたし、U-NEXTさんのアグレッシブなプロモーションのおかげで結果につながったのだと感謝しています。

−ありがとうございます。劇場公開時に異様な熱を持った作品だったので、弊社としてもプロモーションを強化して臨みました。『娼年』は公開時から注目度が高く、応援上映が開催されるなど、ある種の現象になった作品だと思いますが、当初からヒットの予感はあったのでしょうか。

私は15年ほどこの業界にいますが、正直これほどまでのヒットは予想していませんでした。『娼年』は20年近く前に発売されたベストセラーなので、これまで何度も映画化の話がありました。出資の話があった際も、当初はなにかピンと来なかったのですが、松坂桃李さん主演、三浦大輔監督と聞いて、これは成功するぞと。舞台も観に行かせていただいたのですが、場内は女性のみ(笑)。いい意味で、松坂桃李さんがここまでやってくれる、ここまで勇気をもって演じてくださるというギャップが、ヒット要因のひとつだと思います。

−当初から手応えを感じられていたんですね。

自分の中ではありましたが、映画宣伝という意味では、1月16日にYouTubeにアップした特報の再生回数がすごかったんです。原作本の増刷が決まったくらいですからね(笑)。その時にもしかしたら、配信やネットの世界と親和性の高い作品になるのでは?と思いました。

−とはいえR指定作品なので、プロモーションをしづらかったのではないでしょうか。

そうですね、TVスポットもほとんど入れられなかったのですが、逆にネットとの親和性の高さで爆発していった印象です。SNSの動画広告も、Facebook、Twitterなど各サービスの基準に則ってきめ細やかに作成していきました。公開前にも「当たる」という実感・期待感はあったものの、動画を使ったプロモーションが十分にできなかったので、ふたを開けるまでは正直不安でした。

−ですが、結果的に大ヒットにつながりました。

当初公開館数は73館でスタートしましたが、120館以上まで拡大、興行収入は3.6億円に達しました。今月新たに封切られる映画館もあるので、まだ伸びると思います。

−単純なヒットではなく、「現象」になった印象があります。

4月にプロモーションとして女性限定の応援上映を開催したところ、チケットが完売になったので、本当に驚きました。

−この手の作品で「応援上映」をやるということ自体が異例でした。もともとマスに向けた情報が少なかったからこそ、数少ない情報がネットで拡散され、お客様が主体的に情報を取りにいく流れができていたように思います。

確かにそうですね。2018年の映画界では『カメラを止めるな!』(以下、カメ止め)がそうですが、おもしろい作品があるという情報だけでヒットしてしまう。また公開はしているけれど館数が少なくて観られない。この「観られないこと」が宣伝になっているのです。我々はずっと宣伝費をかけて映画を売ってきました。もちろん年間540本も公開されるので、お金をかけないと観ていただけないとは思います。ただ、興収規模は違いますが、『カメ止め』と『娼年』のヒットが、中身をどう伝えるか、を思い直すきっかけになりました。

−確かに、両方ともSNSが生み出したヒットというか、口コミが雪だるま式に膨らんでいきました。実際に劇場にいらっしゃったのはどの世代だったのでしょう?

8割以上が女性でしたね。封切り日の印象では、世代的には30〜40代女性が多かったイメージです。松坂さんのファンももちろんいらっしゃったと思いますが、娼夫の若い男性を買う女性のお話で、かつ清潔なイメージの松坂さんが演じられているので、女性が観やすかったのかなと思います。

−配信の実績でも、女性比率は8割に達しました。通常、日本映画の女性比率は4割程度なので、どれだけ女性に支持されていたかがわかります。また、年齢別では20代がピークになりました(下表参照)

男女比は劇場とほぼ一緒ですね。一方で、年齢層が少し変わって、配信ではより若年層にご覧いただいていることについては、少し可能性を感じています。劇場と違う人が観てくれたということですからね。1本の作品ですが、別のマーケットがあるということでもあります。そこは非常におもしろい。まだ具体的な案はないですが、配信市場を意識して映画作りをしてみてもいいかなと思っています。

また、なんだかんだ言って全国120館でしか公開されていないので、見逃した方も多くいるでしょうし、劇場で観るのが憚られた人もいるかもしれません。近くに映画館がなかった人も含めて、劇場で観られなかった人を配信などの二次利用でどれだけ掘り下げられるかな、と。我々ももうひと工夫しなくてはいけないと感じています。

−年間の映画の公開本数は540本。需要と供給のバランスが崩れているなかで、公開から二次利用までのリードタイムを短くすることも一案ですよね。一方で、レンタル市場の落ち幅を配信が補完しきれてないという話も聞いています。制作サイドにとっては厳しい状況です。

依然レンタルのシェアは高いのですが、レンタルの落ち込みを配信がカバーしきれていないことを鑑みると、ゲームやSNSなど別の娯楽と可処分時間を取り合っているのかもしれません。そういう意味では、映像ビジネスもまさに過渡期。二次利用をしている会社も劇場で勝たないといけませんし、配信会社さんとも新しいおつきあいの形を考えないと、我々も伸びていけない気がしています。

−永田さんはこれまでも、『ヴァイブレータ』『人のセックスを笑うな』『凶悪』など、配信でも長く売上を見込める作品を多く手がけてきました。今後も二次利用を重視した作品を作られていくのでしょうか。

二次利用の会社につとめているので、そうですね。ただ『娼年』は、これまでの興行収入、パッケージ、配信のシェアのイメージを大きく覆しました。U-NEXTさんで年間1位を獲ったのが象徴的で、劇場と配信の実績が必ずしも同じ動きをするのではない。配信向きの作品があるということをあらためて実感しました。『人のセックスを笑うな』の実績が伸びたのは、日頃映画を観ない人が観てくれたからでもあります。女性の方が話題性や口コミで動くので、女性をどれだけ伸ばすことができるかも含めて、作品作りをしていこうと思います。

−ありがとうございます。我々は今後もこうした「配信向き」の作品への嗅覚を磨き、作品を観たいと思っている方に情報発信していきたいと思っています。「今すぐ手軽に観られる」という配信サービスの利点をお伝えしていくことも重要です。ぜひお互いに、新たなヒットを作っていけると幸いです。今日はどうもありがとうございました。

株式会社ハピネット ピクチャーズユニット 映画制作部 永田芳弘氏

2003年『ヴァイブレータ』でデビュー後、『人のセックスを笑うな』(07)、『凶悪』『私の男』(13)、『残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-』(15)などでプロデューサーを担当。次回作は2019年秋公開、押見修造原作の『惡の華』。監督:井口昇、脚本:岡田麿里という異色のコンビで、思春期の少年少女の衝動を描く。

©石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会